宝塚版アナスタシアで輝いているのは、真風涼帆氏の歌唱。そして桜木みなと氏のヴラド。この乙女の原風景のようなミュージカルの主役はアーニャ(アナスタシア)なのですが、ディミトリ用に1曲追加、という改造が効いているうえに、主人公のペテンに加担するヴラドがさわやか!という宝塚の良さを堪能できる良作品に仕上がっています。
この追加曲「♪She Walks In 彼女が来たら」というのがおもしろくて、オリジナルのミュージカルでディミトリを演じた俳優 Derek Klenaさんがこの曲は覚えたけれど、カットされたので歌わなかった、と話すインタビューがありました。
彼曰く、その娘が部屋に入ってきたらモーメントを歌う素晴らしい曲だったのに、主役であるアナスタシア優先だからカットされてしまった、とのこと。宝塚で見事に効果的によみがえったというのに、あまり知られていないのが残念ですね。。。男性を主役にするために追加となったわけですが、それで女性主人公アーニャが薄まることもなかったし、、この作品と宝塚の不思議なご縁を感じます。
ディズニーを出てディズニーへ戻った
「アナスタシア」の始まりは、ディズニー出身のアニメーターが20世紀FOX初のアニメ―ション映画として制作した映画でした。Lynn Ahrens & Stephen Flahertyという作詞作曲コンビは、舞台のミュージカルを主に書く人々なので、ディズニーアニメを意識して曲を書いたとも思えないのですが、ディズニーっぽく感じられる部分もあります。作品の版権としては、会社の買収(2019年)によりディズニーとなりました。
ディズニーから飛び出してつくったが、最後にはディズニーが所有することになった、という作品です。
イングリッド・バーグマン主演映画「追想」(1956) がタタキになっているらしいのですが、ロマノフ王朝最後の皇帝ニコライ2世の末娘、皇女アナスタシアが生きているかもしれない、という都市伝説をアニメのプリンセス物語にした、というほうが正確です。
アーニャに対してプリンス然としたディミトリを配し、ラスプーチンを魔法使い化して悪役にし、ワンちゃんの相棒を足す、というプリンセスアニメの定石を踏んで、おとぎ話要素が強調されているからです。
ワルツ「 ♪Once Upon A December ある12月」は、Lynn Ahrens & Stephen Flaherty のお二人に、オルゴールを開けたら子供時代がキラキラ振ってくるような曲をお願いするよ、って頼んでできたんじゃないかと思えるような曲で、おとぎ話感を盛り上げます。
物語の終わり方もハッピーエンドです。王宮で完結しなくても。どこかでアナスタシアが生きていて天寿をまっとうしたかも知れない現実のミステリーはそのままに、20世紀のおとぎ話が誕生しました。
この1997年のアニメが舞台化されたときに、同じ作詞作曲コンビが起用されたのは必然でした。今度は舞台用なので本領発揮!みたいな感じだったのではないでしょうか。必要なくなったラスプーチンの代わりに政治背景が組み込まれたのも、まっとう、というかロシア革命をラスプーチンの呪いに絡めるのはアニメの世界でのみ成立します。
この舞台をそのままミュージカル歌唱で鑑賞すると、心に残らなかった気がするんです。わたしが最初にレミゼラブルを見たとき、もちろん感動もしたのですが、「オン・マイ・オウン」の曲とそれを歌うエポニーヌ役の歌唱の印象がすべてを支配してしまった、という状況に陥りました。
乙女の原風景、宝塚版「アナスタシア」に、ミュージカル技巧のパフォーマンスは邪魔!つるんとしていて心に引っかからないミュージカル歌唱も多いなか、真風氏がメロディーに乗せるディミトリの心情はダイレクトに伝わってきました。高音の伸びもすごかったです。
翻訳ミュージカルですが、セリフ回しも程よく、「そおううじいふぅ!?」の言い方とか、思わず笑う!
この作品で、わたしは初めて星風まどか嬢の瞳の奥に役を見た気がします。今までの役が決して合っていないことははなかったのに、なんか違和感があったのです。「そおううじいふぅ!?」のセリフを発した人物の演技プランと、その目の前にいる一人の女性の演技プランがぴったり合っている、そんな感じがしました。
歌も立派な2020年代の娘役だなー、という印象です。力強さと清らかさがうまく混じっている歌い方で最高ですわ。
全曲ストリングス多めで夢を紡ぐミュージカルの典型的なラインアップ。(円盤では、セリフに対するオーケストラの音量が大きめなので、音量調節しながら見ないといけないのがつらいかな。。。)
ストーリー展開がご都合主義とのご意見もありますが、お城、舞踏会、軍服、これらが揃うと理屈はどこかに飛んでいく~!
ディミトリとヴラドのナンバー「♪Learn To Do It やればできる」も場面的には紋切型なんだけど、ひげメガネずんちゃんが麗しくて新鮮です。こういう楽しげな曲が散りばめられているし、芹香斗亜氏演じる役人グレブの歌う曲でさえ夢夢しい曲調で。
和希そら氏演じるリリーの曲「♪Land Of Yesterday 過去の国」なんかも盛りあがるんだけど、ここで酒場で踊るシーンね、はいはい、みたいな感情が起きません。言うまでもなく、和希そらあっぱれ!なんです!
幻の名曲「♪She Walks In 彼女が来たなら」の歌詞に「冒険の始まりに、ひとみ燃やし、おどけたように微笑むだろう」という部分があるのですが、♪冒険の始まり~♪と「に」抜きに聞こえるんです。勝手ながら、、、今からさぁ冒険を始めよう、って自分を励ますような曲のように扱いたいと思います!!😉😉😉😉😉
この曲と、既存の「♪In A Crowd Of Thousands 幾千万の群衆の中」の、静かに始まる感じが似すぎていて、どちらもすごく素敵な曲なんですが、ちょっとモヤッとするんです。
しかし!そこは階段降りで、うまく処理されて、整理されて、何万回も言い尽くされてきたであろうパレードの意義が大きく感じられます。
過去への旅~エトワール12月の歌 ↓ リリー、ロシア過去の国の歌 ↓ ヴラド、子犬のように飛び跳ねここから始めようの歌 ↓ 2番手悪役ネヴァ川の流れの歌 ↓ プリンセスによる夢の中ではの歌 ↓ プリンスによる彼女が来たならの歌 ↓ 過去への旅の歌へ戻る
ってな感じ。曲のつなぎがスムーズでとても素敵です。地下鉄に乗っていて、エリザベートの曲を脳内再生するときに、パレードバージョンで出てくるんだよなー、と思っていたところなんです。階段降りのメドレーは、うまくまとまっているとキラキラの詰め合わせみたくなるのなー、と改めて思いました。ここまでのジャーニーを整理してくれるかのようなパレード、無敵です。
「神々の大地」とか「黒い瞳」も記憶に新しいなか、この2020年アナスタシアですから、宙=ロシアものでもいいのでは?月組ファンとしては、月でやるとどうなるかな~と思ってしまうのですが、こうスマートな感じにはいかないかもしれない、、、と思います。😅😅😅😅😅😅😅
まかまど作品↓↓



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