ダル・レークの恋は月組ならではの爽快感のある『喜劇』?

ダル湖風景 感想
2021年2月27日収録@TBS赤坂ACTシアターブルーレイ視聴

奥田民生氏がパフィーの曲を通してオマージュしていたのが、60年代に一世風靡したジャズバンド、ハナ肇とクレージーキャッツ。1962年に公開された映画「ニッポン無責任時代」が第1作目である東宝クレージー映画シリーズというのがありまして、挿入歌もヒットし親しまれていたのですが、主演植木等氏が歌う特徴的な曲が多かったのです。

導入が全く違った曲調だったり、エンディングが場面の幕引き、っぽくなっていたりなど、「ハイそれまでョ」という曲に顕著な、まるで違う曲が組み合わさったかのような構造。それが、「アジアの純真」や「これが私の生きる道」に活かされているのだとか。2007年だったか、奥田民生分析みたいなNHK特番があって、それで見ました。

「これが私の生きる道」のタイトル自体、植木等の「これが男の生きる道」をパロッたもの。ビートルズ「デイ・トリッパー」のギターリフに似たフレーズが間奏に入っていたりと、オマージュ満載。

曲もそうなのですが、大貫亜美&吉村由美のパフィーという存在自体もなんだかニッポン無責任時代の90年代リバイバルであるかのよう。60年代の、物質的には豊かになって「タイムレコーダー、ガチャンと押せばどうにか格好がつくものさ」とか「人生で大切なことは無責任」とか、価値観が尖った楽観に振れた感じが、パフィーの頑張らない雰囲気や、それで~は、さよなら~、っていう気の抜けた歌詞などに反映されている感じ。

時代がそういう脱力系デュオを求めたのか?パフィーの良さを引き出すために脱力系の歌を歌わせたのか?

ニワトリとタマゴですが、「ハイそれまでョ」に見られる全然違う曲を結合させたような手法が使われている、とその番組で知ったとき、なるほどねーと思いました。ただのおふざけソングじゃなくて、今聞いてもとても独創的だし、その曲の構造を認識して、取り入れるという発想がおしゃれ。

前置きが長くなりましたが、「ダル・レークの恋」はその起源も1959年初演と、まさに50年代後半~1960年初頭の作品なわけです。カシミールとパリをまたいだエキゾチックな悲恋物語をつくって上演しちゃおうー!みたいな勢いを感じます。

曲に関しては、1997年再演時に改変と新作追加が行われたそうなので、必ずしも60年代を反映しているとは言えないのですが、「♪どうせこの世は…」をチラ聞きしたときに、昭和ムード歌謡だ!と思いました。とっさに奥田民生氏による曲調変化手法のはなしも思い出しました。

この印象的な歌を歌うのは、ペペル(暁千星)なのですが、東京のみの出演であったため、月組の昭和担当、風間柚乃氏(100期)も歌います。ドラム叩いてツキを待つ?どんな歌詞!?と思いながらも耳に残る「♪どうせこの世は…」

「ダル・レークの恋」の再演は、1997年星組と、2007年の瀬奈じゅん主演全国ツアー公演。ゆえに、2021年に月組、それも次期トップコンビによる再演は非常に理にかなった、かつ、めでたい選択!

月城かなと&海乃美月コンビの演技や歌の相性もいいし、いままでの共演経験に裏付けされた安定感があります。

れいこさんの歌は、相変わらず伸びやかで、「♪小雨のパリ」に聞きほれてしまいそうなのですが、ちゃんと役の歌になっていて、主人公ラッチマンのパリでの情景が見えます。

宝塚の楽曲には、パリ風情シリーズみたいな名曲が多く存在しますが、「♪小雨のパリ」は、断トツ良作だと思います。

その他の曲も良ければ、なにかにつけ登場するダンスの量が多いのも奏功ポイント。ただ、1959年初演の菊田一夫作ということで、古めかしさは否めません。異国情緒たっぷりな設定も、2020年代には少しアップデートしないと。。。その点、映像が多用され、水の精という湖に関連付けたダンサーや歌手を配したことで、ちょっと乱暴な物語の運びが緩和された印象です。月城かなと氏のラッチマンが重厚なのにも助けられている。よくよく考えたうえで行動している感じを醸しています。

守られるべき領主の娘カマラ&リタ(海乃美月&きよら羽龍)が男性が絡む問題に遭遇しすぎな点がモヤっとしますが、そこは戯曲として目をつぶるしかないかなー。

その戯曲としての会話の妙、みたいな部分は、専科梨花ますみさま、夏月都嬢、千海華蘭氏、蓮つかさ氏らが、がっつり担っています。千海華蘭氏がうみちゃんのおじいさん、蓮つかさ氏がれいこさんのお父さんである世界の居心地の良さよ!

特筆すべき下級生のフィナーレ

『フィナーレの女』にきよら羽龍嬢と詩ちずる嬢がいるのですが、このおふたり歌の人かと思ったらダンスも素敵なんですねー。

シタール、タブラの入ったジャズ、みたいな、神秘的ではあるけど疾走感のある不思議な旋律に合わせて、さまざまなフォーメ―ションで下級生が踊りまくるフィナーレ。軽やかで、フレッシュで、見ごたえがあります!(このフィナーレA~Cは、すべて青木朝子先生による音楽+振付が宝塚をはじめミュージカルの振付もなさるジャズダンサーの港ゆりかさん。なんちゃって、に見えないインド風味のジャズダンスを成立させているところがすごい。)

その後に、登場するのが、れいうみありのトリデンテ(真珠の男と女)。ありちゃんの歌でれいこ&うみが踊るという耳・眼福フィナーレです。

喜劇としてのダル・レーク

菊田一夫氏に関してこんな逸話があります。1955年、東京宝塚劇場が進駐軍から返還されたおりに、小林一三氏の招きにより東宝株式会社の演劇担当取締役に就任した菊田一夫氏が書いた台本には、「東宝喜劇」とあった。

「喜劇」という言葉は、主人公が死なない抒情詩としての語源があるそうなのです。基本的には人間を美化する悲劇の対極という意味での喜劇、という側面も。ならば、「ダル・レークの恋」は、偶然の重なりがきっかけで、騒ぎに巻き込まれてしまったラッチマンとカマラ2人の弱さを書いた「喜劇」とも言えます。🙂🙂🙂🙂🙂


コメント

タイトルとURLをコピーしました