「元・宝塚総支配人が語る タカラヅカの経営戦略」は、1986年に阪急電鉄に入社、星組プロデューサーなどを歴任された森下信雄氏(2011年退職)がお書きになった角川新書文庫本です。森下さんは、阪南大学流通学部准教授としてマーケティング戦略を教えていらっしゃるほか、講演などで、宝塚歌劇団についておはなしされることも多い宝塚経営に関する専門家です。
2015年に出版された著書の骨子は、宝塚のビジネスモデルは効率が良い、と、生徒さんの成長物語をファンが共有するという意味でAKB48グループと共通点がある、の2点。
AKBと比較して分析している部分を除けば、ファンにとっては、知ってた!みたいな内容ではあります。
星組プロデューサー
ファンにとって興味深いのは、1998年に始まった歌劇団との関わりが一番濃くなったであろう2000年~2001年星組プロデューサー時代の体験談です。
プロデューサーの役割は、思っていたより大きい印象を受けました。
例えば、演出家よりも、組付きのプロデューサーのほうが組子のことを理解しているし、長中期的なスパンで組の運営を考えている、という記述があります。
香盤表作成への関わりも書かれていて、「歌劇団上層部と演出家と話を重ね」ある組子を抜擢した、とあります。現在は、プロデューサーの位置付けにも変化があるかもしれません。この例として挙げられている抜擢への関与は具体的で、まさに舞台裏!という感じがしました。
人事に関しては、さらに興味深いことが書かれています。宙組さんの退団者の発表と、凛城きら氏の2021年9月27日付け専科異動が発表されたばかり。組替えがあるたびに、プロ野球みたいじゃないか!?と思うわけですが、あっさり肯定されています。
組替えの理由は、量と質のバランスを取ることだ、と断言。
”…宝塚のプロデューサーは、自分のあずかる組だけでなく、他の四つ組の公演は稽古場にも顔を出して、プロ野球のスカウトのごとく「目を光らせておく」必要があるわけなのです。”
新入生の配属に関して、
”…行き先を決めるのは歌劇団プロデューサーによる、いわゆる合議です。これをプロ野球に喩えると「ドラフト会議」になるでしょうか。”
組替えに関して、
”不足しているのは男役なの娘役なのか、年次構成の矛盾はないか、ダンサーが必要なのか、それとも歌手なのか……といった分析と以後の退団予定者及び前述の組替え動向等を加味して補強ポイントを明確にします。”
この年次構成の矛盾は、仕方ないものだと思っていました。
出たばかりの宙組退団者発表によると、花音舞(90期)、綾瀬あきな(91期)、里咲しぐれ(96期)、遥羽らら(98期)さんら中堅娘役が去ることになっています。その後、宙組には96期生の瀬戸花まり嬢より上の上級生がいなくなってしまう事態に。他の組には4人以上在籍しているのに。これは、この本に登場する「年次構成の矛盾」になるのでは?
人事に関して、配属時ドラフトの具体例も挙げられています。芝居上手なので注目していた陽月華さん(元宙組トップ娘役)を指名して、競合がなく獲得できた、と。本当にドラフトですね。なんかいろいろシビアすぎて驚愕でした。
自分の担当組を良くしたいために、自分が良いと思う生徒さんを積極的に獲得する必要があるという、また、そういう仕組みになっているということですよね?
合議、という言葉を使っていらっしゃるので、わたしが頭に描いていた配属の仕組みよりも、よりビジネスの交渉事に近い感じがしました。
もうひとつの興味深いエピソードに、トップスター稔幸さんの怪我があります。東京公演初日が終わり、恒例の打ち上げに参加して、翌朝の飛行機で大阪に戻っていたが、宝塚の事務所に到着する直前に事故の一報を受けて、東京にとんぼ返りしました、とあります。
とんぼ返りというところに、プロデューサーと組との近い関係が表れているなと思ったのです。「組の運営を考え」るのはもちろん、トップスターの事故には真っ先に駆けつけて対応する人だ、ということか。。。プロデューサーというのは、もっと一歩下がったところから見ているものだと想像していました。
200年に向けて
ここからは、わたしの愚見。
どんなエンタメ帝国でも(AKBが引き合いに出されてたからね)、個人的には、拠点があって定期的というのがキモだと思っているのです。
むかーーしむかし、まだ音楽がレコードで売られていた時代、アルバムはレコード店で予約し、待って待って手に入れるものでした。好きなバンドがいるとして、そのバンドがある程度定期的にコンサートツアーを行っていても、ツアーが必ず行われるものでもありません。あと、解散とか活動休止とかもあるし。
普段からそう思っていたところに、最近はコロナの影響による休止や中止が続くため、いつもどこかで上演されている、という状態が抜け落ちてしまいました。ファンの気持ちの拠り所がすっぽりと抜けた状態に。。。
でも、定期的に公演をかけていくタカラヅカの屋台骨は強固。これからの100年も、ファンは増減しながら、続いていくだろうと思います。😊😊😊😊😊


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