最近、もっと録画しておけば良かったなと思う作品がありまして、奇しくも全部雪組作品でした。
その3作品は、
2023年「BONNIE & CLYDE」
2020年「ONCE UPON A TIME IN AMERICA」
2017年「Dramatic “S”!」
ボニクラとワンスアポンは、30年代と20年代のものがたり、時代も近く、両作品とも重苦しい雰囲気。実在の人物とも関係がある。複数人の人が亡くなる。主要登場人物で幸せになる人が皆無。
ボニクラは、強盗団として名をはせたボニー・パーカーとクライド・バロウのカップルを描いたミュージカルで、フランク・ワイルドホーン氏がボニー&クライドを背景にしたデモトラックを作曲したことに端を発する作品。ボニーとクライド二人がテキサス出身で、このコンビの強盗と逃避行がアメリカ南中西部で展開したことから、曲調がカントリーウェスタン調で、各所にこの時代、この地方というモチーフがいっぱい。
そのため、オリジナルの英語での上演は、南部なまりでセリフが話されます。宝塚版は中心人物以外の出演者の使い方や、最後のミニフィナーレ的ショー要素など、宝塚の味付けでそのあたりは薄くなっているのに対し、オリジナルでは、実在の場所や背景がより強調され、社会構造みたいなものがより浮き彫りになり、より物悲しく。。。
だから曲が、楽しませる、という方向に向いていない感じがするのかなー?曲が先につくられただけあって、名曲揃いなんだけど物語の進行に流される感じがして聞き流しちゃう。
あと、宝塚では、クライドや、その兄のバック・バロウ役の役者にちょっとムリを強いることになります。複雑な情況下での男性を演じながら、ナンバーをカントリー調の曲ならカントリーらしく、ブルースならブルースらしく歌わないといけない。男役の歌唱にもうひとつレイヤーが重なっている感じ。
歌詞も自ずと銃を打つこと、逃走用車のこと、死、などなどハードコアな内容で。
でも、ボニクラの世界観に魅了されたファンはたくさんいて、当時はなぜかあまりわからなかったのです。が、じわじわと曲の良さや、それらの曲が何を表現しようとしていたか、などが腹落ちしだし、海乃美月嬢ばボニーを演じた退団後初舞台を観劇しました。(チケット取れるからね)
うみちゃんと有沙瞳嬢の歌が身に沁みましたねー。
そんなこんなで、この作品の良さ、宝塚版の巧みさ、などを再認識するに至りました。御園座公演だったので、劇場サイズにぴったりで、余韻が残る、というか。もし再演されることがあるのなら、カップルを中心としたものがたりであるため、男役、娘役ともにぴったりのジェンヌさんが再び現れたときに再演されると良いですね!
「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」は、1984年公開、ニューヨークのユダヤ人ギャングのおはなしで、映画完全版は4時間に近い大作。犯罪、投獄、裏切り、酒の密売、ギャング抗争と、すべてがダーク。なので初見は、ギャングものかー、で終わってしまいました。
小池修一郎先生の脚本で初ミュージカル化、と2019年に発表されたおりには、ざわざわしていた作品でした。あの場面はどうなるのか?結果、薔薇に埋もれて恋を失くす、という翻案となり事なきを得たわけで、映像を見て安心して、フィナーレで朝美絢氏が女性お化粧のまま登場して、あー大変だったろうなーで終わってしまった。
好き嫌いは別として、作品としてはまとまっています。
編集Jが改めて注目したのは、3点です。
①朝美絢
②まあやきほ嬢の歌
③「♪いい夢だけを」
朝美絢氏のこと、斜に見てしまったのよね。あーさを女性として出せば見栄えがするし、芝居もばっちりなのはわかるわかるよー、みたいに。でもあとから、何気なく映像を見ているときに、あーさ演じるキャロルが非常に魅力的で目が離せないことに気付く。朝美氏ご自身が目指していたであろう出来ばえより10倍くらい良い。最近新人公演ダイジェストも放送されましたが、新人公演も良いですね~、そういう意味でも、ワンスをなめていた自分を叱りたい。
次は、真彩希帆嬢の歌唱。彼女はその歌の評価のわりには、お芝居で歌う場面がそれほど多くなかった印象。望海風斗氏との歌ウマトップカップルには、もっと歌ってほしい気持ちがいつもありました。とは言え、トップスターのソロ、トップ娘役のソロ、二人で歌いまくる場面の3種種を長めにかつ配分良く入れて作品をつくるのは不可能に近い。
そこで、これもまた何気なくワンスアポンを再生すると、改めて、おふたりの「♪いい夢だけを」が沁みます。
いい夢だけを見てゆこう~、というサビの部分には、好きな構造がありまして、、、
まずは、「♪おれは塀の中に閉ざされて、毎日が悪い夢の中~」
そこからの、「でも、これからは」の部分が良いです。「でも」が低音2音で、アクセントになっている。でも、は半分セリフみたいな立ち位置。リフレインの前では「そう、これからは」に変化します。歌詞、メロディー、曲調が一体となって変化!
「いい夢だけを見てゆこう~、辛い日々に別れ告げ~、悲しむより共に笑い、明日の風に向かおう~」の部分は、フィナーレでラインダンスの曲の一部になったり、効果的に使われます。この曲もまた、他の歌い手により表現されるのも聞いてみたいけれど、同時に、このお二人用のとっておきな感じもする曲です。
(ちなみに「♪いい夢だけを」は望海風斗&真彩希帆デュエットCD「Many Thanks」のなかに収録されています)
ワンスのフィナーレ、特にデュエットダンス、も秀悦で、こうくるか~、となります。ドレスもシックで素敵。使用曲「♪愛のひとひら」のアレンジが良く、ビートが効いていて、それに合わせてジャンプする振りが多くて、好きなデュエットダンス、ベスト10に入るかも。
主演が下手でせり上がり、銀橋をわたり、大階段から降りてきて上手に移動してきていた娘役に銀橋の終点で、あらっ、って感じでお互いに気付く。これはヌードルスとデボラが再会して、からの、ハッピーエンドの踊りですね、と言える幸せ。
現実より激しいわ
最後は、ショー作品ですが、数あるショーの名作のひとつとして埋もれてしまいそうな「Dramatic “S”!」について。作・演出は、雪組との相性がばっちりと言われている中村一徳(かずのり)先生です。
トップスター早霧せいな氏の退団公演でした。
他の2作と同様、ぱっと見、ぱっと聞きに引っ掛かりがなくて、誤解しやすい。あ、早霧せいなの劇的なショーね、と理解したような気になる。
でも、実は奥深く、Sにかけて、show、story、stage、sensation、symphony、’S Wonderfulなどなど、Sで始まる言葉の連想ゲームみたいになっております。
金ピカマックスでノリノリのオープニングから飽きさせず、かといってどこかやりすぎている箇所もない。
輝月ゆうま氏が宝塚を、伝統と革新と表現していたけど、このショーは、まさに伝統と革新。ツボはしっかりと押さえつつ、ちょっと変わったところもあって(定期的にめぐって来るが少し珍しい娘役陣のミディースカートの衣装、黒燕尾が退団なのにファンキーなベサメ・ムーチョ、それに続く「♪コーヒールンバ」で娘役約30人が大階段から降りてくる、など)つかみどころがあるようでない作品。
ちょっと変わったところで言えば、銀橋の下の階段のところにトップスターがいて、その後ろを組子が、上手から下手へ駆け抜ける場面。よくあるのに、ドラマティックSのそれは、娘役トップの咲妃みゆ嬢が向かい入れるかたちで下手の舞台袖で踊っていること。ヘイ、ヘイ、行こうぜ!みたいな振りになっていて、珍しいし面白い。
基本、いっとく(中村先生)作品の疾走感が好きなので、そのあたりは個人的好みの問題です。でも、見れば見るほど良くできてるな~という思いが湧いてきます。そういう作品はポロポロと出てきますが、「Dramatic “S”!」が断トツなのです。
この作品の「♪コーヒールンバ」のノリと振り付けがベスト10の勢いで好き。
現実より激しく、夢よりもロマンティック、幻想より妖しく、恋よりも狂おしく、
って誰が考えたん?
って中村かずのり先生ですね!


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