オーム・シャンティ・オームはボリウッド映画界のもじり満載

Red Chillies Entertainment配給作品 雑談

「オーム・シャンティ・オーム -恋する輪廻-」2017年星組公演ごらんになりましたか?この作品に流れる人間の基本的な感情の機微はわかりやすい。輪廻転生の理由や過程も全部わかりやすく表現されている。

原作は2007年公開のインド映画です。筆者は、この映画をはじめシャー・ルク・カーン出演作品は、ほとんど円盤視聴しています。宝塚で舞台化されると知ったとき、内容が端折られるのかと思っていたら、フル再現されてびっくりでした。それゆえに、ちゃんと伝わっているのか不安な部分も。。今日は、ボリウッド映画 “Om Shanti Om”「恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム」について少し語らせてください!

業界人による業界映画

“Om Shanti Om”「恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム」の監督は、振付師のファラ・カーンという女性です。映画産業が主流エンタメであるインドでは、ボリウッドのなかの一部の人々が映画をプロデュースし、製作し、振付し、出演しているのです!

♪Aankhon Mein Teri Ajab Si♪

カーン氏はボリウッド映画に登場するダンスシーン振付の大家で、担当した作品が80を越えるそうです。監督としてのデビュー作は、2004年の “Main Hoon Na” でした。オーム・シャンティ・オームは監督第2作目。

彼女がこの映画業界を舞台にした輪廻転生のストーリーを考えたのは、2002年のこと。ロンドンで上演されたミュージカル「ボンベイ・ドリームス」 (2002~2004年)の振付けをしている時期だったとか。

この舞台、たまたまロンドンに出張で出掛けることがあって見ました。インド的な要素を一般受けしそうな味に調理してミュージカルに落とし込んだような作品で、新ジャンルになり得たのですが、大ヒットにはなりませんでした。

(2015年には、OGの朝海ひかるさんが出演して、梅芸と東京国際フォーラムでも上演されたんですね。)

そんな忙しそうなときに、ストーリーを考えている余裕があったのかー?と思いましたが、こういうことみたいです。つまり、このミュージカルで描かれている世界は、スラムからスターへ、というスラムドッグミリオネア的切り口だったので、これじゃない感がつのった。わかります。

この映画の主演は、シャー・ルク・カーン。配給は、彼が彼の妻とつくった会社 Red Chillies Entertainment です。シャー・ルク・カーンが製作に関与している作品は、一定の品質が担保されていると感じるので、ヒットするべくしてヒットした作品です。女性振付師のアイディアから生まれ、彼女自ら監督をつとめて製作したので、楽しいことは楽しいのですが、根幹には輪廻転生と復讐劇のドロドロが渦巻いているという、ひとつのテーマが、ぶれることなく貫かれている作品です。

セルフパロディー&内輪ネタ

ボリウッドというのは、親族ネットワークの世界です。映画製作一家が誕生すると、その子供たちがほとんど全員、家長の傘下で映画を製作したり出演したり、共演者で結婚するのも日常茶飯事なので、血縁関係の輪が広がっていくわけです。

例えば、Yash Johar ヤシュ・ジョハール(1929ー2004)という名監督さんは、Yash Raj Films (YRF) というインドで最大規模の映画スタジオの一つをつくった名監督 Yash Chopraヤシュ・チョプラ(1932-2012)の妹である Hiroo Johar さんと結婚しているので、同じ名前で義理の兄弟。ヤシュ・ジョハール氏の息子さんでこれまた監督・衣装デザイナーであるカラン・ジョハール氏の映画は、親戚関係にあるYRFより配給されるという具合。

オーム・シャンティ・オームには、ありとあらゆるセルフパロディーの手法を駆使して、そういったボリウッドの内部事情が自嘲気味に表現されています。

ただ、意図的でなく他意もない、感じ。なぜなら、2世俳優の活躍なんてあまりにも日常なので、特別な意味を持たないし。映画製作に関わる人々を軽快なタッチで描いてみた、といったところでしょうか。

ただ、監督さんの悪ふざけが突き抜けてしまったのは、このインドのアカデミー賞のような映画賞の授賞式です。もはやパロディーという言葉がはまりません。

主人公がオーム・カプ―ルとして賞にノミネートされている授賞式会場で、次々紹介されるノミネート作品が、すべて自虐。例えば、Doom5というシリーズ第5作目。実際には、Doomというアクションシリーズは、Doom3 まで。

この自虐Doom5の主演男優は、Abhishek Bachchan アビシェーク・バッチャン、実際のDoomシリーズでおなじみの男優が本人として登場します。アビシェーク・バッチャン自身が2世俳優だし。他のノミネート作品も、シャー・ルク・カーンの主演作をもじってひねった作品。

そして、授賞式のあとのパーティーシーンで、シャー・ルク・カーンに所縁のある共演者が集結してカメオ出演。何らかの事情で断ったりスケジュール的に不可能だった人たち以外全員、少なくとも60人(!)出演されてます。俳優シャー・ルク・カーンの自分へのオマージュ?お友達全員友情出演!?という感じ。

70年代映画へのオマージュ

この場合は、実際の俳優がカメオ出演しているのですが、70年代映画の映像をCG合成したり、1957年の映画 “Mother India” でヒロインの女優(Nargis)を、炎を使ったシーンの事故から救ったことがきっかけで彼女と結婚した俳優(Sunil Dutt)の逸話をもじるなど、映画、映画業界、映画スターへのオマージュで埋め尽くされた作品が、オーム・シャンティ・オームなのです。

だから宝塚に合わないとは、言えないのですが、主軸が別のところにある作品だったらなあ、という気持ちはありました。

ヒンディー語の映画

インド映画は、どこの映画でもそうであるようにピンキリですが、なかでもヒンディー語の映画が一番洗練された雰囲気を醸しているので、ピンキリの幅が狭いと感じます。それでも、アクションがメインの作品のオープニングやエンディングで、これでもかと踊るナンバーがついているものがあったかと思えば、上品なテイストでストーリーも思慮や示唆にあふれていてダンスナンバーが劇中劇のようなかたちで自然に組み込まれている作品、楽しそうな内容なのに、ダンスシーンは凡庸でイマイチなものまで多種多様。

オーム・シャンティ・オームは、内輪ネタが過ぎる点を除けば、及第といたしましょう。。。

ボリウッド作品で宝塚に合うのは、なかなか無い気がします。というのも、ダンスシーンを組み込むときに劇中劇や、白日夢と、虚構と現実を行ったり来たりする設定は舞台転換と相性があまり良くないです。舞台でもここからは夢です、ファンタジーです、という場面はつくれますが、慎重につくらないと誤解のもとなので。。

今回、Red Chillies Entertainment のラインアップを見ていて、これも Red Chillies だったか!と思った作品があったので、ご紹介しときます。“Billu Barber” (2009) です。この作品は、ぱっと見地味で、ん?床屋さんのはなし?となります(実際床屋さんのはなしなので)が、ダンスシーンが無理なく組み込まれつつ、物語がしっかりしているので、ぜひ、何かの機会があればご覧ください!😃

♪Marjaani♪

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