社長シリーズをご存知でしょうか?以前から、社長シリーズと宝塚歌劇団って同じフォーミュラだよなーーと思っていたのです。これには、社長シリーズとはなんぞや?というところから解説しなければなりませんが、お付き合いくださいー。
社長シリーズとは、森繁久弥主演の東宝制作の喜劇映画シリーズで、1956年から1970年まで続きました。東宝サラリーマン喜劇映画というジャンルが確立され、70年代にテレビが主流になるまで輝きを放った作品群です。
全33作らしいのですが、「社長太平記」(1959年1月3日公開)と、その続編「続・社長太平記」を起点として最後の「続・社長学ABC」までの28作品がメインの作品群になります。
というのも、社長太平記はモノクロで、主人公の海軍時代が夢のなかで回想されているシーンから始まります。部下のほうが社長より軍の階級が上だった、という背景を見せるためです。60年代のヒットシリーズという意味では、カラー作品のみをメイン作品群としたいところですが、太平記の続編からカラーになったので、モノクロの本編から数えることとします。ちなみに、この28作品群にすべて、社長夫人として出演しているのが、元月組男役トップスター久慈あさみさんです。
これら主要作品群28作は、森繁久弥氏演じる社長が経営する、さまざまな業種の会社が舞台となっていますが、全部書くと↓こうなります。
| タイトル(公開年) | 社名 | 業種 |
| 社長太平記&続・社長太平記(1959) | 錨商事 | 下着メーカー |
| サラリーマン忠臣蔵(1960) | 赤穂産業 | 商社 |
| 社長道中記&続・社長道中記(1961) | 太陽食料 | 缶詰メーカー |
| サラリーマン清水港&続・サラリーマン清水港(1962) | 清水屋 | 酒造 |
| 社長洋行記&続・社長洋行記(1962年) | 桜堂製薬 | 製薬(香港ロケ) |
| 社長漫遊記&続・社長漫遊記(1963年1月・3月) | 太陽ペイント | 塗料 |
| 社長外遊記&続・社長外遊記(1963年4月・5月) | 丸急百貨店 | 百貨店(ハワイロケ) |
| 社長紳士録(1964) | 大正製袋 | 製紙 |
| 社長忍法帖&続・社長忍法帖(1965) | 岩戸建設 | 建設 |
| 社長行状記&続・行状記(1966) | 栗原サンライズ | アパレル |
| 社長千一夜&続・社長千一夜(1967) | 庄司観光 | 観光 |
| 社長繁盛記&続・社長繁盛記(1968) | 高山物産 | 貿易 |
| 社長えんま帖&続・社長社長えんま(1969) | マルボー化粧品 | 化粧品 |
| 社長学ABC&続・社長学ABC(1970) | 大日食品 | 食品 |
製造、小売から、化粧品に至るまで、多岐にわたっていますね。その業種の会社に起こりそうなことを描きながら(ときには大騒ぎして海外出張しながら)物語が進行するのですが、社長、右腕兼お世話係り的な社員、保守的で総務とか財務の幹部、この3人の関係は変わらないんですよ。
業種や役職、社員の私生活などの細かい部分は、脈絡なく変わるのですが、森繁久弥、小林桂樹、加東大介の3人が演じるということと、社長に対するレギュラー陣の関係性は固定、なんです。小林桂樹氏の役職も時には秘書課長、時には全然違う役職。社長のパートナーのように公私にわたり社長と関わっていきます。加東大介氏は、突っ走ろうとする社長を受け止めてくれるという意味で、がっちり脇を固める2番手。
例えば、社長行状記&続・行状記の舞台である、栗原サンライズっていう紳士服メーカーでは、社長がこう提案します。「わが社の紳士服におけるチオールとの技術提携というものを発展させて、安くて魅力的な婦人既製服、すなわちそのプレタポルテのだな、販売に乗り出そう、こう思うんだが…」
加東大介氏演じる後藤常務が、こう諭します。「ご存知のようにですね、婦人既製服というのは、流行の変遷が激しいのでね…」
社長は、全く聞く耳を持たず、「いまそういう説明はやめてくれたまえ!」だの「もっと積極的な精神じゃないと何にもできないんだ!」と畳みかけますが、後藤常務は、食い下がり、「…流行の変遷が激しいのでね、華やかなわりに利益が少ないというのが、業界の通り相場なんです!」
社長:「そんなことは、百も承知だよ!」

常務:「じゃあですよ、大阪衣料はね、昨年、フランスのジャルダンと提携してですよ、不利益が出て失敗した、社長ご存知じゃないですか。」
社長:「大阪衣料が失敗したからって、栗原サンライズが失敗するとは限らんじゃないか!!」
いかにもな設定下のいかにもな応酬ですけど、婦人既製服は華やかなわりに利益が少ない、、とか2021年に聞いても響く言葉というか、コロナで打撃を受けているとはいえ、50年前に後藤常務が指摘していたぞ、みたいになってますね。。。60年代なので、会社経営がトップダウンなんだけど、そろそろ潮目を読まないと70年代80年代を乗り切れない感、みたいなものも出てます。
シリーズを通して、舗装されていない道もある街並みや、植えたばかりでひょろひょろの植栽が時代を感じさせます。ファッションやお店の内装、ザ・昭和な商慣習(接待とか名刺交換とか)を見るのが楽しい!
地方ロケを組み込んでいるところは、寅さんとか、釣りバカなどと同様、シリーズものの定石ですが、社長シリーズは同じ人物じゃないっていうところがミソなんです。
社長的立場のリーダー、それが森繁久弥。カバン持ちなんだけど、時には強くも出る右腕、演じるのは、小林桂樹。総務や財務方面において社長をきびしく優しく支える役員、演じるのは、加東大介。このトリデンテとレギュラー陣を、業種や、会社が直面する問題を変えることで上手に演出して、既視感と未視感の間を攻める、みたいな。トップ、トップ娘役、2・3・4番手あたりまでのジェンヌさんが舞台上で、作品ごとに役を変えながら絡んでいく妙味を楽しむのと似てる気がするのです。
スカイステージ「宝塚魂-タカラヅカスピリット-#6 宝塚のフィナーレナンバー、パレード」の回で、朝夏まなと氏が動画出演されていて、フィナーレとパレードについての想いを語ったあと、この……ん……システム?は、ずっと残していって、のようにおっしゃったのですが、まさに、システム!と膝を打ったのでした。
宝塚の舞台は、偉大なるマンネリ、とよく表現されます。マンネリは変わらない、ということではなくて、一定の固定要素をうまいこと変化と絡めていくことなんです!日本人が日本映画黄金期に慣れ親しんだ社長シリーズのように!


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